我が家でいちばん薬剤師を信じた男
葛根湯が効いた記憶がまったくありません。
こちらの記事は以前にnote用に書いたものを転載しています。今は風邪もなおって、すっかり元気です😊
最初はパパ太郎だった。
喉に違和感がある。咳がちょっとだけ出る……。
典型的な風邪の初期症状だった。
家にあった葛根湯の錠剤を何回か飲んではみたものの、あまり良くなる気配がない。
仕方ない、もう少し効果のある風邪薬を買おう。
ということで、二人していつもの薬局へ行った。チェーン店だけど、親身に相談に乗ってくれる高齢の薬剤師さんがいるお店だった。
店に入ってすぐ、薬剤師さんの姿を見つけたパパ太郎は
「ちょっと風邪っぽくて。喉に違和感……」
「いいのがありますよ!」
こちらの話を遮るかのようにして、おじいちゃん薬剤師がニッコニコの笑顔を向けて来た。
「いやぁ~、私も毎日飲んでるんですけど。風邪の初期症状ならこれですよ、これ」
と言って白衣のポケットからおもむろに金色の小袋を取り出した。そして横の棚においてあった箱入り商品をすっとカウンターの上に置く。
その手つきがあまりにも華麗すぎて「うさん臭い」と私のアンテナが警告を発した。お店のノルマか、売り上げに対するキックバックか、きっと何かがあるに違いない。
ちらりと横を見ると、当のパパ太郎は興味津々だ。
「これね、成分がたっぷりはいってるんです。大谷がCMしてるあの商品の10倍です、10倍はいってるんです。風邪ならこれです」
いや、違う。
それは薬じゃなくて、ただのサプリメントだ……。
と言うこともできず、おじいちゃん薬剤師になんと言って断ろうかと、私はしばし考えをめぐらせた。
「サプリもいいんですけど、葛根湯が効かなかったんで、今日はもう少し強めの薬が欲しいと思ってるん……」
「えっ、葛根湯?だめだめ、あんなの効かないから。風邪ならこっちのほうが絶対に効くから」
おじいちゃん薬剤師の強めの口調に、さらに不信感がつのる。そもそもサプリメントでは効果効能をうたってはいけないのではなかったか?
仮に特定保健用食品だったとしても、薬の葛根湯より効くってのは絶対に言い過ぎだ(あとで調べてみましたが、特保でもなく、本当にただの栄養補助食品でしたw)
私ひとりだったら絶対にそのまま帰っていたが、問題はパパ太郎だ。すっかり信じている。
仕方なしに私は別の角度から攻めてみる。
「でも、なんだか高そうですよねぇ~。いくらするんですか?」
「ん、値段?」おじいちゃん薬剤師はちょっと面倒そうな表情をして、それから「600円」とぶっきらぼうに答えた。
「安いじゃん」
パパ太郎が返事をすると、間髪入れずにおじいちゃんが付け加える。
「3個入りだから、1800円ね。あと消費税」
なんと。
3個入りの箱を目の前に差し出しておいて、個包装1個分の値段を答える人なんて、初めて見た。
帰る。
私ひとりなら絶対に帰る。
ただ何度も言うように、パパ太郎はすっかりその気なのだ。
なんで気づかないのだろう。
少しばかり苛立ちながらも、結局私らはそのサプリメントを購入した。
結局飲むのはパパ太郎だし、ここまで信じてるのなら、プラシーボ効果で体調が良くなる可能性だって、ないわけではない。
で、実際のところ飲んだ初日には「いやぁ、いいよ、これ。今日、体軽かったもん。やっぱり葛根湯じゃダメだったんだね」と喜んでいた。
まぁ、別の意味で効いたならいいか……と思いはしたが、2日目からはあまり効果を実感できなかったようで、3日で1箱を飲み干すと、あとは鼻をズビズビさせて、冴えないご様子。
そうして、このあたりから、私に風邪の症状が出始めた。
3日分のサプリしか買ってないから、結局我が家には風邪薬がないままだった。同じく葛根湯も効かない。
医者に行くほどの高熱でもないから、ずるずると自宅で過ごして4日目あたりで、鼻水が滝のように流れて来るようになった。
辛い。つらすぎる。薬だ…。
パパ太郎にお願いしようにも、またあのおじいちゃん薬剤師と出くわしたら、何を買ってくるかわかったものではない。
私はAIに助けを求めた。
咳が出て、鼻水がつらくて、微熱があって、胃腸も怪しい。でも、ピークはすぎてそうな気がする。カプセルは苦手だから錠剤がいい。
私の症状を伝えると「それならこの辺ですね」といくつかの風邪薬をAIが選んでくれた。
私は基本的に、病気や怪我など健康に関することはネットで調べたり、AIにきいたりしないようにしている。情報の信憑性がわからないので、正しいかどうかの判断ができないからだ。
だから、本当に具合が悪ければ病院だし、それほどでもなければ薬剤師に相談する。
ずっとそうして来た。
でも、AIが並べてくれた風邪薬の一覧を目の前にして、私はこう思ってしまったのだ。
最初っから、AIにきいておくんだった。
もちろん、AIだって間違える。ハルシネーションだってある。
でも少なくとも、こちらの話をきちんと聞かないまま、自分の売りたい商品へと誘導してくるようなことはない。
思い返してみると、私は薬剤師さんの知識そのものというよりも「症状をちゃんと聞いた上で、その人に必要なものを勧めてくれる」という態度のほうを信頼していたのだと思う。
だから今回、その信頼が思った以上にあっさり崩れてしまったのがとても残念だった。
人間は時としてこういう小さな雑さで、簡単に信頼を失う。
しかも一度失った信頼は「まぁ今回は仕方ないか」では、なかなか元に戻らない。
ちなみに、AIが選んでくれたのはド定番の「パブロンゴールドA」だった。パパ太郎に商品名をしっかり伝えて、買ってきてもらった。210錠で2000円ちょっと。
あのサプリメントと同じくらいの値段というのが、なんだか絶妙に悔しい。




パパ太郎、、、、
あぁそうか。プラシーボって大切なんだなってことがよくわかる情景でした。
却下せずにちゃんと買ってかえったママ太郎にも拍手👏